2025年4月18日金曜日

〈Reasons to keep singing〉(不定期掲載)

 今週末は、いよいよ《MANY RIVERS TO CROSS》全編の公開だ。
 内藤から動画公開の提案を受け、2003年にリリースされた動画を改めて見直し、内藤の途轍もない情熱が込められているのを再確認した。
 初めて見る人は、じっくり楽しんでね。

《MANY RIVERS TO CROSS》(Full HD 103分)


《MANY RIVERS TO CROSS》制作ノート Part 4

2003/1/27
 ロケの映像を入れて編集したビデオを持って内藤がうちへ来る。くり返し再生しながら最終確認。いよいよ佳境だ。
 ここへきて、どうしてもストーリーに馴染まない曲が出てきた。それをカットするかどうか、頭を抱える。贅沢な悩みだ。内藤が言う。
「DVDを買った人は、きっと“あの曲が入ってない。あの曲も入ってない”なんて言うんだろうなあ」
「それは仕方がないよ。コンセプトがあって曲が選ばれてるんだから。……それにしても、この曲をカットするのは忍びないよなあ」

2/19
 〈20th Anniversary Party〉のための打ち合わせで下北沢440へ。そこで内藤とデザイナーのコヤマ君と落ち合い、DVDのジャケットデザインのミーティング。

3/13
 アルバムレコーディングを終え、間髪を入れずにDVDのミックスへ入る。初日は内藤も参加し、まずは東京以外のライヴのMCや、ビデオでしか残っていない音やノイズの調整。それだけで1日かかった。
 〈New York Concerto〉のリミックスから始まった作業は、アルバムとは少しやり方が違う。いつものスピーカーで確認した後、14インチ程度のテレビのスピーカーから流して再度確認する。その差は歴然としているが、どちらで聞いても納得のいくバランスを探していく。メドレーを含めると全26曲。たいへんな作業だ。

4/2
 〈20th Anniversary Party〉の2日後の23日から新宿にある編集スタジオへ通う。まずはオフライン編集。リップシンクの確認や曲間の長さの決定、全体の流れを作っていく。僕には作業の細かいところは分からないが、ジャッジしなければいけないことに関しては、内藤と話し合い、決定は内藤に任せる。
 1秒間は30フレーム。0.5秒の間隔を空けるため、内藤が15フレームごとに指示を出す。
 オンライン編集。映像に関しては、これが最後の仕事だ。ロールテロップを作り、彩度を調整し、エフェクトのレベルを決定し、音を聴きながらモニターで映像を確認していく。耳と目を一緒に使うものだから、結構疲れる。
 最後はMA。音と映像を最終的に合わせ、曲ごとのレベルの調整などの作業。サウンドの部分では僕がジャッジし、映像を含めた最終的な決断は、話し合った後、監督としての内藤にゆだねる。
 楽屋で僕がふとつぶやくシーンがあり、その音がどうしても前に出てこない。それでも内藤としては、どうしてもそのシーンを使いたい。
「OK分かった。それじゃあ常識を忘れてミックスしてください」と僕がミキサーに言うと、「分かりました」と彼が笑って答えた。
 内藤はよく言っていた。
「俺は写真のプロだけど、映像は言ってみりゃアマチュアだからさ。制作のノウハウは知ってるけど、無視できるんだ。定石通りの映像を小山ちゃんで作っても面白くないだろ」
 最後にもう一度、オープニングから通して見る。
 103分のライヴロードムービーが、3年越しに完成した。

 スタジオを出て、新宿三丁目で軽く飲む。口数が少ない。終わったなあ……。そんな空気だった。長い長い旅を終えたカタルシスが、そこにあった。

 この20年間、内藤とは、結びついたり、ぶつかったり、交差したり、すれ違ったり、遠く離れたり、再会したりしてきた。友情とは違う、根っ子の方での切っても切れない何かを無意識に感じていた。
 この作品を作り終え、内藤と僕はまたしばらく離れるかもしれない。でも、次にまた何かを一緒にやり始める時は、きっと今とまったく同じテンションで「よお!」なんて言い合うに違いない。
 MANY RIVERS TO CROSS。僕たちはたくさんの河を渡った。その記録がここにある。




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