我が家にザ・ビートルズを持ち込んだのは、5歳上の兄だった。俺は小学生。NHKの『みんなの歌』を聴いていた頃だ。エレキ、ビート、シャウト、すべてが初めての体験だった。その衝撃は、未だに消えていない。
1969年、アルバム《アビイ・ロード》、1970年アルバム《レット・イット・ビー》リリース。
自分でレコードを買う年齢になった頃には、ザ・ビートルズは解散していた。
いつだったか憶えていないが、映画『レット・イット・ビー』を見た。個人的な感想だが、解散に向けて無残に空中分解していく4人の姿があった。
後に知ることになるのが、《レット・イット・ビー》の後に《アビイ・ロード》がレコーディングされ、実質として最後のアルバムは《アビイ・ロード》だったということ。
あれほどの仲違いの後、名盤《アビイ・ロード》が制作できたということが、どうにも理解できなかった。
その謎が解けた。
ディズニー+で公開された『ザ・ビートルズ GET BACK』。映画『レット・イット・ビー』で撮影されたフィルムを50年の歳月を経て新たに編集した作品だ。そのボリュームは7時間50分。
アルバムのレコーディングと、ずっとやっていなかったライヴを念頭に集結した4人。軽快に音楽を奏でてはいるが、どこかギスギスしている。スタジオの外では、ビートルズやジョンとヨーコに関するゴシップが渦巻いている。
時間の無駄とも思えるほどカバー曲を何曲もプレイしながら(もちろん編集の仕方だろうが)一転して、名曲の原石が生まれていく。
ポールが何気なくベースを弾きながら歌い始めたメロディが〈Get Back〉になり、全体の“核”になっていく。
ジョージがある日、バンドからの脱退を告げてスタジオを去る。以前見た映画『レット・イット・ビー』では、ポールとジョージがアレンジのことであからさまに喧嘩するシーンがあったが、今回の作品ではカットされていた。
話し合いが持たれ、スタジオの場所を移してまた4人でのレコーディングが再開される。そこではアルバム《アビイ・ロード》に収録されることになる曲が何曲もプレイされる。
つまり《レット・イット・ビー》だけじゃなく、もう1枚アルバムを作るだけの余力があったということ。
ちなみに《レット・イット・ビー》は、ザ・ビートルズ解散後にフィル・スペクターのプロデュースでリリースされた。メンバーは仕上げに参加していない。
『ザ・ビートルズ GET BACK』のラストは、もちろん屋上でのライヴ・シーン。ほぼノー・カット。ザ・ビートルズがいかに優れたライヴ・バンドだったかということが再認識できる。
以前見た映画『レット・イット・ビー』はそこで終わっていたが、今回は、スタジオに戻って屋上ライヴのテイクを4人で笑顔で聴いているシーンや、ライヴの翌日もスタジオに入って真摯にレコーディングに取り組む姿があった。
すばらしいパフォーマンス、軽快なジョーク、現場のスタッフの動き、スタジオ機材などなど、時を越えて見ることができ、改めてザ・ビートルズの偉大さを感じた。
そして思う。ジョンとジョージが、もうこの世にいないことを。
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2021年11月28日日曜日
7時間50分のザ・ビートルズ
2021年11月24日水曜日
叫ばなければいけない時
ブルース・スプリングスティーン & E STREET BANDの新譜《ノー・ニュークス・コンサート1979》。
恐ろしいほどパワフルだった。映像を見ながら震えた。いや、正確に言うと、震えていたあの頃を思い出した。
ブルースのサード・アルバム《明日なき暴走》がアメリカで大ヒットした頃、ロンドンでは、ザ・クラッシュやセックス・ピストルズなどのパンクが台頭していた。
パンクも熱かったが、何かが決定的に真逆だった。赤い炎と青い炎、とでも言えばいいか。
変わらないことの大切さを、日々思う。
だがやはり、変化こそが重要。同じテーマで同じ歌を作っていても、まったく意味がない。ブルースだってそう思っているはずだ。
年齢を重ねるうちに、歌のテーマは“怒り”ではなく、“切なさ”になっていく。
「世の中なんてひっくり返してやる」と息巻いていた若造は、やがて、自分の力ではどうしようもなく変えられないことが世の中には山ほどあると知り、それでも生きていかなきゃと、前ほどのフットワークがなくなった足でも強く歩き始める、その“切なさ”がテーマになる。
「世の中を変える」のではなく「自分を変える」ことなのだと気づいた時、人は謙虚になれる。
〈最終電車〉を世に出した頃、当時の若い男性のお客さんは、1コーラスに出てくる若い男に思い入れてくれた。その同じ男性が、今は3コーラスの酔っ払いの男にリアルを感じている。
25歳で作った〈カーニバル〉は今も歌える。でも今、〈カーニバル〉のような歌を作ることに意味を感じない。作るなら、違うテイストになるのは当然のことだ。
シャウトは遠くなった。
それでも! 叫ばなければいけない時がある。
Photo : Takuji
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2021年11月22日月曜日
魔法の粉
図書館でたまたま手に取った『世界の民話』を読んだのがきっかけで、改めて『グリム童話集』を読んでいる。『初版』から『7版』まであって、日本で出版されている本にも様々なバージョンがあり、翻訳者も違う。筑摩書房から出ている『完訳グリム童話集 全7巻』にした。
たまたまだが、『アイヌ神謡集』も読んだところだ。
ドイツ語ではメルヒェン、英語ではフェアリーテイル、日本語だと伽話。多分ちょっとずつニュアンスが違うんだろう。
『グリム童話』は残酷、というかシュールなシーンが多いとされる。『シンデレラ』の原作の『灰かぶり』では、金の靴に足を入れるために指を切ったりする。
浦島太郎と同じシチュエーションの話があって、びっくりした。
『死に神の名付け親』という話は、初代三遊亭圓朝が落語の噺にしている。
『グリム童話集』も『アイヌ神謡集』も、口づたえの伝承の物語とされているから、日本神話にも繋がる気がする。
これらには、曲作りのための魔法の粉が振りかけられている、と感じる。
挿絵は、ブレーメンの音楽隊。
Photo : Takuji
オフィシャル・ファン・コミュニティー〈ONE〉を更新した。
■ライヴビデオ
2021/7/31 埼玉 入間市文化創造アトリエ アミーゴ
〈真夜中のボードビル〉
〈天国のドアノブ〉
『水面のあかり』という映画が、11/20からレイトショーで上映されるという情報をもらった。興味がある人はぜひ。
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2021年11月19日金曜日
2021年を締めくくる3本のライヴ
今年のライヴは、あと3本。
2021年を締めくくるソロ・ライヴ〈小山卓治ワンマンライヴ -Thank You! 2021-(12/18)〉は、ひさしぶりにバイオリンの磯部舞子(ベチコ)を迎えて、東京 新宿御苑 ライブ&バーRutoで開催する。
ベチコとやるのは今年の2月以来。新しいアレンジに取り組むつもりだ。
コロナが収まってきたおかげで、これまで以上に早く予約が入ってきている。心配しないで会場に来てくれてだいじょうぶだよ。コロナ対策は十分にしてある。
〈小山卓治 × 河村博司(12/4)〉と 〈小山卓治 × 鎌田ひろゆき(12/30)〉は、阿佐ヶ谷harnessに予約してね。
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2021年11月17日水曜日
密かな記念日
今日は、禁煙して10年目の記念日。10年もたてば、肺もずいぶん綺麗になったんじゃないかな。あの時やめたから、今の声がある。
2011年を振り返ると、Aloma Black'sとのラスト・ライヴ、ソロでの〈New Days ツアー〉、鳥取でのバンド・ライヴ、沖縄県那覇市と石垣島、石川県加賀、秋田での初ライヴ、新潟でのひさびさのソロ、鎌田ひろゆきと近藤智洋との〈唄旅〉、磯部舞子と天神タケシの初登場。いろんなことがあった1年だった。
photo : Masashi Koyama
石垣島の海 Photo : Takuji
■〈ONE〉更新情報
〈ONE〉のメンバーの誕生日に直接届く、音声と映像のバースデイ・メッセージを新たに作った。メンバーは楽しみにしていてね。
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2021年11月15日月曜日
泣くのはいやだ笑っちゃおう 進め!
この歌詞に憶えがある人、いるかな。俺と同世代ならいるかも。
丸い地球の水平線に
何かがきっと待っている
苦しいこともあるだろさ
悲しいこともあるだろさ
だけど僕らはくじけない
泣くのはいやだ笑っちゃおう
進め!
「ひょっこりひょうたん島(歌詞:井上ひさし 山元護久 )」のテーマソングだ。
ふと思い出して改めて思った。とんでもなくポジティブな歌詞だったんだな。子供のための歌はこうでなくちゃいけない。
ドン・ガバチョとトラヒゲのボケとツッコミに笑い転げた。サンデー先生が金髪なのに違和感はなく、ダンディさんのクールさに憧れたものだ。そのキャラはムーミンでいうスナフキン、ぼのぼのでいうスナドリネコさん。
子供の頃、NHKの「みんなの歌」で流れた〈勇気のうた〉の歌詞。
熱い砂漠に風が吹き
砂塵にけむる地平線
飲まず食わずに一週間
もう最後かと思う時
勇気が僕にささやいた
倒れちゃだめだ
がんばれと
突拍子もない設定だとは思ったが、子供のための歌はこうでなくちゃいけない。
作詞は、やなせたかし氏。まさにアンパンマンの世界じゃないか。
話は逸れるが、「ひょっこりひょうたん島」の後番組として始まった「ネコジャラ市の11人」のテーマソングは、やたらアバンギャルドでパンクだった。
手塚治虫の「どろろ」のテーマも、ある意味パンク。
「鉄腕アトム(作詞:谷川俊太郎)」の後に放映されたのは「ジャングル大帝(作曲:冨田勲)」だった。贅沢だなあ。
今の子供たちは、どんな歌から勇気をもらっているんだろう。
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2021年11月10日水曜日
Bruuuuuuuuuuuuuce!
ブルース・スプリングスティーン&Eストリート・バンドが、1979年に出演した〈ノー・ニュークス・コンサート〉のフル・サイズの音源と動画がリリースされる。
当時は、数曲とダイジェスト映像しか見ることができなかった。でも世界中が度肝を抜かれた。どれほどのミュージシャンが刺激と影響を受けたことか。
俺も当時、輸入レコードショップで、ブルース・スプリングスティーンの今で言う〈Bootleg〉のレコードを何種類も買い、隠し録りの最悪な音源のライヴを聴きまくった。動画なんてほぼ手に入る時代じゃなかった。レコード盤がよれよれで、レコード針がすごい上下していた。
ライヴ・アレンジもさることながら、長いMCで何をしゃべっているのか、英語が堪能な友人の家に持って行って翻訳してもらった。あまりに音が悪くて友人も困っていたっけ。
今では考えられない時代だったな。
クラレンス・クレモンズがいる。ダニー・フェデリシもいる。
29歳のブルースがいる。
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2021年11月9日火曜日
スティング宮本とのバンド・ライヴ
2021年11月7日日曜日
ジェラシー
鈴ノ木ユウとのライヴ。俺はどうしてもユウキって呼んでしまう。
お客さんで、ユウキが漫画家だということを知らない人もいた。3年もたてばな。
ユウキの歌を聴いていると、かすかにジェラシーを感じてしまう。それほどいい歌を作るやつだ。
ラストに〈落とし穴しかない場所〉を歌う前、ユウキがこんな話をした。
「この歌を聴いたアニキが言ったんだ。『すごい歌を作ったな。これは10年に1曲書けるかどうかの歌だぞ』って」
確かにそう言った。ちゃんと憶えていたんだな。
ライヴが終わり、お客さんがユウキにサインを求めたら、ユウキが俺の似顔絵を描いてくれた。さすがプロだ。
来年から、また新しいマンガを書き始めるそうだ。そうなると、また歌はしばらくお預け。でも「またやろうな」と、熱いハグで約束した。
Photo : Takuji
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2021年11月3日水曜日
鈴ノ木ユウとのライヴ
3年ぶりのジョイント・ライヴは、告知から1日でソールドアウトになった。『コウノドリ』だけじゃなく、みんなあいつの歌を待っているんだな。
セッション曲の資料を送り、さて何を歌おうか。
スティング宮本のライヴでギターを弾いていた木村建君が、Twitterに写真を載せてくれた。嬉しいね。
オフィシャル・ファン・コミュニティー〈ONE〉を更新した。
■WORDS 心に刻まれた言葉
フォレスト・カーター 「リトル・トリー」
桐山襲 「パルチザン伝説」
ジョージ・プリンプトン 「イーディ― ’60年代のヒロイン」
燃え殻 「ボクたちはみんな大人になれなかった」
パウロ・コエーリョ 「ザーヒル」
佐藤多佳子 「神様がくれた指」
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