2025年3月25日火曜日

〈Reasons to keep singing〉(不定期掲載)

  DVD《MANY RIVERS TO CROSS》の動画配信が始まった。
 最初の曲は〈1 WEST 72 STREET NYNY 10023〉。YouTubeに掲載された。
 今週末、3/29(土)は〈Aの調書〉を配信する。


《MANY RIVERS TO CROSS》制作ノート Part 2

2001/9/19
 先日のライヴのラフ編集ビデオを見る。何度か内藤とメールでやり取りし、方向を定めていく。ビスタサイズでいくのか、ビデオ処理的な映像を使うのか、モノクロでいくのか、などなど。

10/15
 ツアーは名古屋方面を終え、関西へ。10/9からの3連チャンに内藤が参加。
 神戸は細かい雨。リハの後、楽屋で内藤からのリクエスト。
「こっちから来てそこに座って、ギターを抱えて〈Show Time〉のイントロ弾いて」
「イントロだけ?」
「そう、イントロだけ」
 本番の最中、たまに内藤のビデオカメラが視界に入る。そこから熱を感じる。それは内藤に写真を撮られている時と同じ熱だ。
 夜、大阪のホテルに戻り、その日撮影したビデオを見る。リアルなドキュメントだ。
 翌日は奈良。内藤は客席後ろのロッカーの上によじ登って撮影している。終演後、内藤が満面の笑みで楽屋に来て「すごいのが撮れたよ!」と、さっそくそこで見せてくれる。
 3日目は京都。大阪から高速道路で移動している間、車の中でギターを弾いたりする映像を撮影。
「こんな普段の映像撮って、使えるのか?」と僕。
「小山卓治ばっかりじゃ飽きるだろ。たまには卓ちゃんも撮らないとな」と内藤。
 リハの終わりに、内藤からのリクエストで〈Show Time〉を2度歌い、内藤が上手と下手から撮影。
 夜は、また大阪のホテルに戻り、ビデオを見ながら朝まで大騒ぎ。

11/1
 関西3本で撮影したビデオのラフ編集が届いた。あの長丁場からの切り取り方がすごい。これがもっと凝縮していくことを考えるとゾクゾクする。
 内藤とメールを何度も交わす。
「アコースティック・ツアーの部分は、全部モノクロで撮る。ザラザラした小山ちゃんのライヴの空気を捕らえる。1人の小山とバンドとの小山、旅とステージ、歌と時勢、そんな対比の中で、例えば今回のテロのように、事件があったりロマンスがあったりする中、2000年から2002年へかけてのストーリーにしたいと思ってる」
「旅をたどっていきながら、ストーリーを描いていこう。内藤の場合って、何をどう撮っても絶対に内藤の色になる。僕はそんな内藤を望んでる」
 そんな全体を貫くイメージのやり取りに加え、オフショットの使い方、黒のしまり具合、色味の統一など、細かいディテールを確認し合う。

11/18
 事務所で、照明オペレーターの葛西ちゃん、内藤とスタッフで、年末のバンドライヴに向けてミーティング。葛西ちゃんとやるのはひさしぶりだ。ここまで撮影した内藤のビデオを見てもらい、今のライヴの空気を感じてもらう。彼がチームに参加することで、ステージのイメージは劇的に変わる。撮影のためには、どうしても彼が必要だった。
 ミーティング後、内藤と葛西ちゃんと近くのベルギービールの店へ。来年までのスパンで考える中、今度のステージで〈Aの調書〉をやるかどうか決めかねていた。だが葛西ちゃんとやるなら、どうしても〈Aの調書〉を歌いたい。デビューコンサートの時の葛西ちゃんの〈Aの調書〉の照明がものすごかったからだ。しかし一発勝負のライヴで失敗する可能性もある。そう話すと、「〈Aの調書〉で、もうひとつシーンを作ろうと思えばできるよ」と言ってくれた。そのひと言でやることに決めた。
 サウンドのコンセプトも固まってきた。ずっと1人でやってきたアコースティックのテイストを、中野督夫さんとスティング宮本でやってきた空気感で膨らませ、それをバンド・サウンドに昇華させ、最後はぶち切れる。

12/2
 渋谷 ON AIR WESTに入ると、照明のシュートの最中。メンバーと握手を交わし、楽屋で談笑。リハのためにステージに行くと、いつものスタッフに加え、撮影スタッフとライヴ・レコーディングのスタッフがいる。
 オープニング・ムービーは、内藤が関西方面で撮影した映像をまとめたものだ。
 ひさしぶりのバンド・スタイルでのステージ、初めて一緒にプレイする5人、しかも撮影にレコーディング。だが不思議に緊張はない。
 〈傷だらけの天使〉で幕を開けたステージ。バンドのグルーヴが僕をがっしりと支え、歌はうねっていく。督夫さんとスティングでやってきたサウンドが、バンドサウンドに昇華している。
 照明が物語を作っていく。恐ろしくシャープだ。それをたくさんのカメラが記録していく。僕の中で、何かが突き抜けた。

12/3
 内藤からメール。
「感動した! いい絵も撮れた。次への足がかりもつかんだ。なんかすがすがしい気分だ!」




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