村上春樹が新訳したJ・D・サリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ(1951)』を読んだことで、ふと庄司薫を思い出し、22歳の時に本名で出版された『喪失(1959)』と、庄司薫のペンネームで出版され、芥川賞を受賞、映画化もされた『赤頭巾ちゃん気をつけて(1969)』を再読。
俺には5歳上の兄がいるから、その影響もあって、当時背伸びしながら読んだ。
サリンジャーからなぜ思い出したかというと、当時、庄司薫の文体や設定が『キャッチャー・イン・ザ・ライ』に似ているとさかんに言われていたからだ。
サリンジャーは『キャッチャー・イン・ザ・ライ』以降に何作か発表した後、ぴたりと筆を止め、その後いっさい世間から遠ざかった。
庄司薫も『赤頭巾ちゃん気をつけて』以降、7作ほどの執筆の後は、まったくメディアに登場していない。そこも類似点ではある。
ちなみに、サリンジャーは第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦に参加しており、それがトラウマとなってPTSDをわずらったという噂もある。
30代になったばかりという自由闊達な時期に執筆された『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『赤頭巾ちゃん気をつけて』を改めて読むと、おもはゆいほどの弾ける若さ、ドロップアウトへの淡いあこがれ。異性とのちぐはぐな関係、不安なまでの自由、そんなものが文体からあふれて出てくるのを感じる。
Photo : Takuji
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