《MANY RIVERS TO CROSS》全編公開(YouTube)
■旅路の向こうに
卓治:このツアーの最中にニューヨークのテロが起きて、それがホテルのシーンにかなり濃く刻まれたよね。最初のミーティングで、ツアーやりながらストーリーが生まれれば、なんてことは話してたけど。
内藤:撮影の時っていうのは、20年間やってきた中で、こっちにも間合いがあるんだよ。写真の場合は瞬間だから、あんまりびったり行くと本人もだれてきちゃう。あえて距離感を撮るっていうのがあるんだよね。距離感を間違えると、撮れなくなっちゃう。すごくフレンドリーな写真は撮れるんだけど、それが小山卓治のアーティスト像としてふさわしいかっていったら、やっぱり違う部分もある。アーティストとしてのエッジが、小山卓治像が効いてるものを撮る。だけどしょっちゅうあるわけではないじゃん。詞もそうだけど、ずうっと〈Aの調書〉みたいなこと考えてるのかっていったら、そうでもないわけじゃん。腹へったなとか、花が綺麗だなとか。そういう普通の人間のところに、ところどころ出てくるものだから。
ビデオの場合は撮ってる間中の時間があるからね、ずうっと撮り続けてないと、その1秒先に何を言うか分からないし、とにかく会ってる間中回してなきゃっていう。多分小山ちゃんも疲れたと思うし、俺も疲れた。何で俺はこの男をストーカーみたいに追い続けなきゃいけないの、嫌だよって思いながら。
ホテルのシーンは、アイデアとして考えてたんだけど、とにかくその時その時のことは全部撮り続けてる中で、たまたまアメリカの報復が始まった時に神戸の夜、ホテルで撮った。
あの2001年のホテルのシーンは、小山ちゃんともけんけんがくがく、入れるべきかどうかってやったよね。作品にする時には、風化したりリアル感がなくなったりするだろうから、撮ってる時から、これは使わないなっていうのがあった。だけどまとめてる時に、その根っ子にあるものっていうのは全然風化しないんだよね。10年後に見たら、そこの部分は懐かしい感じだけしか残らないかもしれないけど、2003年の今はもっともっとひどいことになってるし、これは俺たち1人1人の人間がどう感じるかっていうことの、ひとつの例だし。
それと同じ理由かどうか分かんないけど、たまたま路上の〈傷だらけの天使〉もあんなんなっちゃった。そういう予定外のことってたくさんあったよね。
卓治:関西方面の3日間のことは、たつのすけも言ってたよ。「濃い3日間でしたねえ。長ーいツアーに出てたみたいだった」って。大阪のライヴが終わってロケがてらバーで飲んで、そのまま車で走って名古屋に着いて、誕生日だっていうんで、また飲みに行って。大阪と名古屋で飲み屋のハシゴしたんだよ。
内藤:ライヴ終わった後も、必ず部屋で試写会やるじゃん。そこでも飲むでしょ。はしょって見ても2時間くらいかかるから、夜中の3時とかになるじゃん。それからまた飲みたくなって出かけてたからさ、飲んでることしか思い出せない。撮ってる時だけはテンション上がるから関係ないんだけど。たった3日だったけど3ヶ月くらい行ってたような。
卓治:長かったなあ、あの3日間は。
内藤:濃かったよ。滅茶苦茶だったよね。でも楽しかった。やっぱりああいうことやんないとね。
卓治:名古屋の楽屋のシーン、「俺たちも家に帰ろう」も、あの時だよね。
内藤:(笑)そうそう、心の底から出たよな。ああいう、ふと楽屋でもらした言葉みたいなのがあるから、ずうっと撮っとかないと。ほぼ99パーセントは、つまんないこと言ってんだけどね。
1曲目の〈傷だらけの天使〉は、2002年の夏前くらいまでにはほぼ完成してた。実際コンサートでもオープニングだったし、立ち上がり方はオープニングっぽいと思ってた。だから9/27のアンコールの〈傷だらけの天使〉は、俺はもうなしだなって思ってたわけ。でも6年ぶりのバンドライヴの〈傷だらけの天使〉と、2度目のバンドでの〈傷だらけの天使〉と、同じ楽曲でもこれだけテンションが違うんだよ。アンコールだったっていうのもあるけど、バンドの連中の生き生きとしたサウンドだとか、同じような歌い方してるんだけど、最後に「サンキュー!」って言うところがね。ツアー最後の「サンキュー」の、自信にあふれた言い方が画面にグッとくるんだ。
これでもう〈傷だらけの天使〉はOKと思ってたら(笑)、スタッフたちに先に曲順表だけ見せたら、すごい批判された。
卓治:(笑)だって〈傷だらけの天使〉が3回入ってんだもん。
内藤:スーパーバイザーの小沢さんにも「こんなのありかよ。だったら他の楽曲入れられただろ」って言われた。そんな勝手にはいかないよ。ひとつの流れがあるんだから。
でもあの時のストリートライヴは、まさかこっちは〈傷だらけの天使〉を歌うなんて思ってなかったからね。
卓治:そういや、なんであそこで〈傷だらけの天使〉を歌っちゃったんだろうな。
内藤:(笑)それは誰にも分からない。なぜあんなことになってしまったのかも分からない。予定外のことまで計算できなかった。そういうことだってあるんだよ。ある意味、壊れた小山卓治だよね。
卓治:とうとう最後に壊れちゃった。
内藤:歌うとは思わなかったよ。それもフルバージョンで。
卓治:やり始めたら止まんなくなっちゃったんだよ。
内藤:でも俺はやっぱり路上〈傷だらけの天使〉からステージ〈傷だらけの天使〉に移るところは感動するよ。名古屋のステージでは、小山ちゃん泣いてるし。
卓治:(笑)泣いてないっちゅうに。泣いてるみたいに見えるから嫌なんだよな。ひでえよ。
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