近くの公園の、いつものベンチで本を読む。吉田篤弘氏の本は初めて。
2両編成の路面電車が走り、古い映画館のある小さな街での話。どこか懐かしい匂いがしてくる。
何か特別なことが起こるわけでもなく、すっきりと晴れ渡った青空と同じような感触のストーリー。手作りのサンドイッチ屋を営む男、その息子、お店でスープ作りを始める青年。そして何人かが、相手が秘密にしたいと思っていることにはひっそりと知らんぷりをしながら、日常で小さな発見をしていく。読んでいくうちに、心の凝りがほどけていくようだった。
後書きにこうあった。
「この小説の舞台は、生まれ育った赤堤をモデルにしている。駅でいうと、小田急線の豪徳寺駅と東急世田谷線の山下駅が最寄り駅になる」
ああ、だからか。1991年から3年ほど、俺はまさにその街で暮らしていた。
Photo : Takuji
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