俺がデビューした頃のアルバム・ジャケットの色校正は、印刷所でプリントしてもらい、レコード会社のデザイン・ルームまで、デザイナーやプロデューサーと足を運んでチェックした。
アルバム《NG!》でデザイナーが指定した赤は、ただの赤ではなく、どこまで落とした赤にするかのこだわりがあった。
最初にあがった色校を見て唖然とした。写真はべったりつぶれて、ほとんど黒という感じだった。デザイナーが激怒した。
何度もやり直しの印刷がくり返され、それが原因でリリースが遅れそうになるくらいだった。
テレビの上にのびるアンテナの影がうっすらと壁に写る、そこまでのニュアンス出たところでOKが出た。
80年代後半、それまでアナログで出していたレコードがCDに移行されることになった。その作業には立ち会えなかった。
A面とB面をつなぐ曲間の長さは、俺の知らないところで決められた。《NG!》のジャケットは、また真っ黒になった。赤もただの赤になっていた。直したいと思っていた歌詞の誤植も、そのままになってしまった。
CDの音を聴いて、「なんだこりゃ!」と呆れかえった。奇妙にクリアで、嫌になるほど押しつけがましく、大切なものがバッサリと切り捨てられていた。
その頃のブックレットの最後には必ず1ページ追加され、こんな文言が定型として掲載された。
〈コンパクト・ディスクの優れた特徴〉
音が、すばらしく良い
いつまでも変わらない、いい音
ポケットにも入る、コンパクト・サイズ
扱いカンタン
その後、〈CD選書〉で再リリースされたことは、ある朝広げた新聞の広告で知った。
時代は移った。色校正は、パソコンを駆使して納得できるまでやれるようになった。音源は、限りなくアナログに近い音に仕上げられるようになった。
何よりも、一番大切なことが再認識された。
音源は、商品ではなく作品だということだ。
photo : Takuji
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