かすみを食って生きてきた。
10代の頃のかすみは甘くて酸っぱくて極上の味だった。大人たちは全員「そんなもん食ってると、いつか腹こわすぞ!」と頭ごなしに決めつけた。
30代に入ると、かすみの味はほろ苦さを増してきた。同年代の友人たちからは「おまえはいいなあ、今もうまそうなもの食ってて」とため息混じりに、やっかみ半分で言われた。
そして今や、かすみはただただ苦い。それでもやっぱり、かすみを主食に生きている。
たまに若い連中に聞かれることがある。
「それ、おいしいですか?」
君次第だ。
俺よりもはるかにかすみのうまさを味わいつくし、俺よりもはるかにかすみの不味さを体感しながら早世していった尾崎豊君。
お互いのライヴを何度も見に行き、居酒屋で飲んで語り、でも最後に代々木体育館でのライヴ終了後の楽屋で会った時は人に心を開かない暗い瞳になっていた、俺が知る限り最もピュアなシンガー。
そんな彼の80年代と併走したギタリスト、江口正祥君とのライヴが近づいてきた。
彼からこんなおもしろいエピソードを聞いた。
〈15の夜〉の「盗んだバイクで走り出す」という詞を書いた彼が、打ち上げの席で酔っぱらいながら「盗んだバイクは走らない〜。だってカギないですもんね(笑)」なんてジョークを飛ばしていたとか。
その時の彼は、俺が知っているクシャクシャなピュアな笑顔だったんだろう。
俺が江口君とライヴをやる時は、言葉にすることはなくても、意識の中から消えていたとしても、そこに尾崎君がいる。
生き残っていたら50歳を越えている尾崎君が、今描くラヴソングを、聴いてみたい。
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